皮膚科医が目指したい目標として、皮膚科専門医資格の取得があります
このためには皮膚科専門医試験で合格する必要があります。
しかし受験資格を満たすのが大変な上に合格率も決して高くない、忙しい病院勤務をしながら勉強しなければならないなど、効率的な勉強が求められます。
そこで今回は皮膚科専門医試験に合格するため、役立つ勉強方法や参考書などの情報をまとめてみました。
新専門医制度下で2023年度の皮膚科専門医試験に合格しました
この記事では自分の実体験や周囲の意見をもとに、おすすめの勉強方法や参考書を解説していきます
皮膚科専門医試験について
まずは皮膚科専門医試験について簡単に見ていきましょう
現在多くの人が当てはまる新専門医制度(日本専門医機構)での受験資格は、下記のようになります
- 5年以上の研修期間※
- 論文3本以上
- 学会発表8本(論文が多ければ少なくても可)
- 各種講習会の受講
※5年目途中で受験可能。たとえば2023年4月〜専攻医1年目の場合、2027年(専攻医5年目)で受験可能です
補足
旧制度(学会制度)だと5年間の研修を”終えてから”受験資格が得られるシステム(つまり皮膚科6年目に受験)だったので、変更になっています
論文は3本以上が必須ですが、論文本数が4本より多ければ学会発表回数が少なめでも大丈夫です。ただ論文の方が大変なので論文3, 発表8が目指しやすいはず
受験資格を満たした上で症例レポートなどを記載した書類を提出し、書類審査で1〜5までの点数が付けられます。評価5は加点/評価1は減点されますが、具体的な点数は公開されていません(1〜2点くらいという噂)
書類審査を経て受験票が届き、試験に臨むことになります
参考までに、2023年度のスケジュールは下記のとおりでした
- 2022年11月頃:試験日程について日本皮膚科学会雑誌に掲載
- 2023年4月頃:事前提出書類のExcelファイルがサイトに掲載される
- 2023年7月末:事前提出書類の提出締め切り
- 2023年11月上旬:受験票が届く
- 2023年12月3日:試験日
- 2024年1月下旬頃:結果発表
なお2024年度の試験は12月15日に東京国際フォーラムで開催されることが決定しているため、2023年度と大きくは変わらないはずです
肝心の試験について、試験時間は午前のみの2時間半で、筆記試験(選択100問+記述20問)となっています。
以前は午後に面接試験がありましたが、2019年度からなくなっています。代わりに問題数が100問→120問と増えています
皮膚科専門医試験の合格率は?
皮膚科専門医試験の合格率は毎年80%前後です。所属地域(支部)ごとの合格率も毎年発表されていますが、大きな差はありません
合格率 | 東部 | 東京 | 中部 | 西部 | 全国 |
2023 | 86.4% | 78.2% | 78.8% | 88.4% | 81.1% |
2022 | 76.1% | 80.4% | 84.4% | 80.0% | 80.9% |
2021 | 86.5% | 81.0% | 80.8% | 86.4% | 82.7% |
2020 | 78.6% | 86.9% | 70.8% | 83.7% | 80.5% |
2019 | 89.5% | 78.8% | 72.3% | 86.0% | 80.0% |
(日本皮膚科学会広報雑誌 JDA Letterより:要会員)
合格するために必要な得点率は公開されていませんが、例年55〜60%程度の得点率で合格、70%あれば確実と言われています。
相対評価のため難易度によって多少変化します
書類の評価は重要か?
書類審査は90%以上の人が加点も減点もされない2〜4点で、本番の筆記試験点数がほぼ全てです。
加点される5点は英語論文や海外発表などを複数回行っている先生が多いです。つまり日々の積み重ねなので簡単に出せるわけではないです
事前提出書類作成の時点でできる努力として、症例レポート(最低15例だがMAX30例まで記載可能)を頑張る方法があります。ただ30例書いていても評価3だったり、15例で評価4だったりと、努力量と評価が必ずしも比例しないようです。
皮膚科専門医試験で合格するための勉強方法
皮膚科専門医試験対策の勉強は、過去問をベースにすることが大切です。基本は以下の3点セットになります
おすすめ勉強方法
- 過去問を解く
- 間違えた問題や、知らなかった周辺知識をピックアップしてノートにまとめる
- 反復演習で知識を身につける
過去問ベースといっても全く同じ問題は少ないので、「ただ解けるだけ」では不十分。
正解以外の選択肢に類似する問題が多く出題されるので、周辺知識を身につけ類似問題を着実に取れるようにすることが大切です
具体例で解説しましょう
過去問学習が有効な具体例を解説
具体例として、NUDT15遺伝子多型に関する問題を見てみます。リンク先に解説記事があります
2021年度の問題(2021年 選択84)では「副作用発症リスクがNUDT15多型によって異なる薬剤は?」という問題でした。正解はアザチオプリン(イムラン®)です
一方2022年度の問題(2022年 選択69)では、「どの遺伝子多型では副作用発症リスクが高く投与を控えた方が良いか?」という問題でした
この場合過去問知識で”アザチオプリン投与前にはNUDT15遺伝子多型をチェックする”としか覚えていない場合2022年度の問題に対応できません。
しかし一歩進んで「アザチオプリン投与前にはNUDT15遺伝子多型を測るのが良いんだな。ではどの多型だとリスクが高いんだろう?」と考えて学習していれば十分得点可能な出題です。
各選択肢の正否や関連知識、関連する過去問へのリンクなども記載してあるので学習に利用してください
勉強情報をまとめる
過去問ベースの勉強方法では知識が断片的になりやすいので、重要事項をまとめる必要があります。
下記2つのやり方が代表的です
- 紙の参考書(あとで紹介)に足りない項目を適宜追記していく
- タブレット端末(iPad)やPCでデジタルメモを作成する
好みもあるのでどちらでも良いのですが、個人的には検索性が高いデジタル端末利用がおすすめです
自分はiOS標準のメモアプリでまとめていました
デジタルメモを手書きで利用したい場合は、Good Notes5やNotabilityなどのノートアプリが選択肢になってくると思います(iPad + Apple pencil)
またScanSnapとディスクカッターを導入して、紙の書籍や書類をPDF化しておく(いわゆる"自炊")と教科書を持ち運ばなくて良いため、デジタル派の方にはおすすめです
富士通 PFU ドキュメントスキャナー ScanSnap iX1600 (最新/高速毎分40枚/両面読取/ADF/4.3インチタッチパ...
最近のドキュメントスキャナはOCR機能(画像データ中のテキスト部分を認識する機能)の性能が高く、本の索引から調べるより検索バーにキーワードを打って調べると時短になります
教科書やガイドラインの通読はやめよう
勉強というと、皮膚科についてまとめられている教科書やガイドラインを一から通読しようとする方がたまにいます
しかし、このような勉強方法は試験対策として行うのはおすすめしません
というのも教科書の範囲は膨大ですし、専門医試験の出題は教科書から満遍なくということはなく、試験に出やすい疾患・出づらい疾患があります。このため単純な通読は効率が悪いです
やみくもに通読するのではなく、過去問を解いて重視されている部分を理解し、その部分を重点的に読み込むというメリハリを付けた勉強の仕方がおすすめです
合格するための勉強スケジュール
皮膚科専門医試験対策の勉強スケジュール
- 過去問3年分を解く
- 「あたらしい皮膚科」など参考書(後で紹介)の関連部分を読む
- 過去問5年分まで一通り解く(1周目)
- 過去問5年前までを再度解く(2周目)
- 参考書の該当部分を再度読み、理解が薄い部分をノート(iPadなどでも可)にまとめる
皮膚科専門医試験に合格するために、最低限ここまではしっかりやっておきたいです
時間があるようであれば、以下へ進みましょう
- 過去問6〜10年前までを解く
- 過去問10年分を再度解く(1〜5年目分は3周目)
- 間違えた問題を解き直す
- +α教材を勉強する
+αの教材は以下で紹介しますが、こうした教材で勉強するのは(過去問から外れた)新しい疾患概念や治療になることが多いです
しかしこうした知識は当然過去問がないので、出題されたとしても差が付きづらいものです。よって優先度としては過去問の後ということになります
受験生のほとんどは過去問を解くため、合否を分ける既出問題・その周辺知識を抑えることがまず優先です
過去問は何年解けばよいのか?
過去問を何年分解くかは悩むところでしょう
勉強方法のところで解説した通り、試験対策として解く場合はただ答えが合っているだけでは不十分で、周辺知識を学んでおく必要があります。つまり1問解くのにも結構手間がかかります
そのような解き方でたくさん解くのは時間的にも厳しいのですが、少なくとも5年分はしっかり解いておいた方が良いです。
もちろんたくさん解ければその方が望ましいのですが、しっかり周辺知識も含めて勉強となると10年分くらいが現実的な目標でしょう
このブログの過去問解説記事では最後に関連する問題をピックアップしてまとめています。5年分しか手が回らない場合でも、5年分+関連問題を見ておけばかなりの範囲をカバーできるはずです
なお5年分が手一杯という場合も、記述問題だけは最も古い2009年までやっておいた方が良いです
これは記述問題では同一問題が出題される頻度が高く、また選択問題と比較して合否を分けやすいためです
いつから皮膚科専門医試験対策の勉強を開始すればよいのか?
結論から書くと、遅くとも半年前から試験勉強を始めたほうが良いです
試験日は12月上旬で、書類提出締切が7月末です。書類のために症例レポートの準備等が必要ですから、7月の間はなかなか試験勉強に取り組めないものです。7月ギリギリに書類を提出すると、8〜11月の4ヶ月しかないのでやや不安です
このため受験する年度の開始(4月)〜6月をめどに勉強を開始しましょう
このような場合はより早くから勉強を開始するほうが無難と考えられます
皮膚科専門医試験の試験対策で役立つ参考書など
皮膚科専門医試験対策で重要な参考書
ここまでは優先度が高い教材です。
以下は+αで、より詳しく学習したい際に利用する教材です
以下順番に解説していきます(上記リンクをクリックすると見出しにとびます)
皮膚科専門医試験の過去問
勉強方法のところでも触れたとおり、最も重要なのが過去問です
過去問の問題と図表は2009年度分まで、下記の日本皮膚科学会公式サイト(要会員)でPDFを閲覧することができます
実際に受験した先輩などが持っている場合もあるでしょうから、ツテを利用して集めるのもありです
メインで使う教科書
過去問を解きながら知らない部分をメイン教科書で勉強していく形になります
このメイン教科書ですが、皮膚科専門医試験受験者のほとんどが持っている「あたらしい皮膚科学(通称あたひふ)」を使いましょう
最新版の第3版は2018年と少し古いですが、著者の清水宏先生は2021年に亡くなってしまったので当面4版はでないと思います
メイン教科書でもう一つ迷うのが「皮膚科学(通称マイナー)」です。真菌症など分野によってはあたひふの記載が少ない場合があるのと、2022年改訂で情報が新しいことからできれば購入したいです
過去問1周目の学習ではあたひふのみを読み、過去問2周目以降で余裕が出てきたら皮膚科学を読むという形も良いかもしれません
このブログの過去問解説ではあた皮膚・皮膚科学の記載ページを解説の後に記載しているので、参考にしてください
サブ分野の教科書
サブ分野に特記した教科書があります。具体的にはダーモスコピー・皮膚病理です
上記のメイン教科書だけではこれら分野は少し弱く、補うためにダーモスコピー・皮膚病理は1冊ずつあると良いでしょう。
ダーモスコピーでは「ダーモスコピー 超簡単ガイド」が良いです
薄くて持ち運びやすく、見開きで左ページがダーモスコピー写真・右ページで解説となっているので参照しやすいです。また著者の田中先生は、2018年〜2021年度の専門医試験委員会委員長を務めていた先生で、そのためか試験でもこの本と全く同じ写真が出題された例があります
- 2021年 選択81 (境界型母斑)
- 2018年選択 74 (皮膚線維腫)
病理については、メイン教科書だと病理写真がない疾患がたまにあります。幅広く取り扱われている本として「1冊でわかる皮膚病理」が最もおすすめです
対抗馬として「みき先生の皮膚病理診断ABC」があります(Vol.1〜4)。皮膚病理の中でも問われやすい毛嚢系・脂腺系・汗腺系腫瘍が扱われているVol.2 付属器系病変はおすすめ
ガイドライン
日本皮膚科学会から、いくつかの疾患についてガイドラインが公開されています
メイン参考書には載っていないが、ガイドラインに記載されている内容から出題されているという問題がちょくちょくあり、中には「ガイドラインで推奨されている治療はどれか?」のような直接的な問題もあります
下記に例をいくつか挙げておきます
ガイドラインの知識が必要な問題例
- 2022年 選択16 (NF1について)
- 2022年 選択40 (アトピー性皮膚炎ガイドラインの記述について)
- 2018年 選択4 (AGAガイドラインで推奨度の高い治療)
ガイドラインはかなり長大なので通読することは難しいですが、過去問で重点的に問われているような項目は一度目を通しておくとよいです
研修講習会テキスト (皮膚科専門医テキスト集)
毎年支部学会や総会で講習会が開かれており、専門医試験受験資格にも必要なので受講している先生も多いかと思います
おおよその開催時期は下記の通り。参加費は5,000円/2コマです
時期 | コマ数(1コマ1時間) | |
冬 | 1月上旬 | 8コマ(2日) |
総会 | 6月 | 4コマ |
夏 | 8月 | 8コマ(2日) |
支部大会(東部・東京・中部・西部) | 10〜11月 | 各2コマ |
この講習会ですが、以前は現地開催のみで人によっては参加が難しかったところ(市中病院で部長と自分だけみたいな状況だとなかなか参加できませんよね)、コロナ禍以降はWEB開催になり受講しやすくなっています
過去問であまり扱いがないトピックがここから出題されることもあるため、試験を受ける前1年間は講習会に積極的に参加すると良いです。
(例:2023年 選択97の犬疥癬の内容は過去問出題歴がありませんが、中部支部講習会で取り上げられていました)
講習会に参加すれば貰えるこれら講義テキストですが、「皮膚科専門医テキスト集」として1年分まとめて15,000円で販売されています。
購入方法は、日本皮膚科学会雑誌(紙)で毎号最後の方に「書籍購入申込書」というページがあるので、こちらを郵送ないしFAXする形です。皮膚科学会ホームページにも申し込み用PDFファイルが掲載されています
マルホ皮膚科セミナー
毎回15分ほどでテーマを絞って行われるラジオ番組です
サイトでバックナンバーが公開されており、聴講とPDFの閲覧が可能となっています
オンデマンド(2023-2024)|マルホ皮膚科セミナー|メディカル・健康|ラジオNIKKEI
教科書で取扱いの少ない分野は、こちらが勉強に役立つ場合があります。
例えば下記のようなものです
おすすめマルホ皮膚科セミナー
全部聴講するのは難しいでしょうから、自分の理解が弱い部分だけ絞って見てみるのが良いでしょう
新・皮膚科セミナリウム
日本皮膚科学会雑誌で毎号3〜4本ほど掲載されている記事が新・皮膚科セミナリウムです。各領域について専門の先生が記載しているものなので、かなり詳しい内容です
J-Stageに掲載されており、皮膚科学会会員はPDFを閲覧可能です(もちろん紙の冊子で読む方法もあります)
日本皮膚科学会雑誌(紙)に毎号「事務局からのお知らせ」という項目があり、ここにJ-Stage閲覧用のユーザーID/パスワードが記載されています
ただ1年分だと50本近くあるので全部読むのはなかなか大変だと思います。とくに基礎系の話だと難易度も高くて挫折します
一部よく試験に取り上げられるトピックがあるので、まずはこうしたものだけ目を通しておきましょう。
具体的には下記のようなもので、いずれもメイン教科書では取り扱いが薄い分野です
おすすめ皮膚科セミナリウム
こうしたセミナリウムは読む優先度が高いです
臨床皮膚科 最近のトピックス
臨床皮膚科の増刊号で、年1回5月頃に出版されます(医書.jpの電子版もあり)
直近数年皮膚科で話題の疾患や新規治療薬についてまとめて解説されています。出題頻度は高くないので気が向いたら読むくらいで大丈夫です
クイズ de 皮膚科学
皮膚科専門医試験の仮想問題が200問掲載されている本です
過去問と類似の問題もあるので、医師国試の模擬試験のようにある程度過去問演習が進んだ後で知識の整理として使うのが良いでしょう
また過去問では取り扱いがなかったものの、本書掲載問題が新規に出題された例もあります:2022年 選択55(サビーン®の適用)や2023年 選択49(偽ポートリエ微小膿瘍を構成する細胞)など
まとめ
勉強方法のところで書いたとおり、皮膚科専門医試験対策は過去問に始まり過去問に終わると言えます
ただ解くだけではなく、問題文や選択肢の正否を判断できるようになること・周辺知識を身につけることを意識して学習に取り組みましょう
このブログの解説記事では過去問を解く際役立つように、出題歴のある周辺知識や関連問題をなるべく併せて記載しています。
例えば最初は年度ごとに1問ずつ解いていき、2周目・3周目に解く際は過去問だけでなく関連問題も同時に解くようにすると、知識が定着しやすくなるはずです。
国家試験と異なり仕事をしながらの受験勉強なので大変な面もありますが、皮膚科専門医試験合格を目指して頑張りましょう!!
この記事やブログの過去問解説がそのために役立てば幸いです。