日本皮膚科学会 皮膚科専門医試験 平成24(2012)年度の解答解説を作成しました
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- 問題出典:試験問題(過去問題) |公益社団法人日本皮膚科学会(問題・写真はリンク先で確認下さい)
- 参考文献:あたらしい皮膚科学 第3版、皮膚科学(マイナー) 第11版でカッコ内は選択肢番号、その他は問題末に各自記載
選択問題51〜75は下記
-
平成24(2012)年度 皮膚科専門医試験 過去問 解答解説 選択問題51〜75
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見出し
- 1 平成24年度(2012年度) 皮膚科専門医試験 過去問 解答解説 選択問題 76〜90 記述
- 1.1 選択問題76:解答 3, 4, 5 (現在は3, 4)
- 1.2 選択問題77:解答 1, 3, 5
- 1.3 選択問題78:解答 5
- 1.4 選択問題79:解答 2, 4
- 1.5 選択問題80:解答 5
- 1.6 選択問題81:解答 2
- 1.7 選択問題82:解答 4
- 1.8 選択問題83:解答 4
- 1.9 選択問題84:解答 5
- 1.10 選択問題85:解答 1
- 1.11 選択問題86:解答 4
- 1.12 選択問題87:解答 5
- 1.13 選択問題88:解答 2
- 1.14 選択問題89:解答 2
- 1.15 選択問題90:解答 2, 3, 4
- 1.16 記述問題1:解答 尋常性疣贅 (verruca vulgaris)
- 1.17 記述問題2:解答 基底細胞癌(basal cell carcinoma)
- 1.18 記述問題3:解答 フェオメラニン
- 1.19 記述問題4:解答 小児腹壁遠心性脂肪萎縮症(遠心性リポジストロフィー)
- 1.20 記述問題5:解答 乳頭状汗管嚢胞腺腫 (syringocystadenoma papilliferum)
- 1.21 記述問題6:解答 ポリ塩化ビフェニル (ダイオキシン)
- 1.22 記述問題7:解答 フルニエ壊疽
- 1.23 記述問題8:解答 陰茎結核疹
- 1.24 記述問題9:解答 adaptive
- 1.25 記述問題10:解答 プロゾーン現象 (地帯現象)
平成24年度(2012年度) 皮膚科専門医試験 過去問 解答解説 選択問題 76〜90 記述
選択問題76:解答 3, 4, 5 (現在は3, 4)
原発性局所多汗症に関する問題
局所多汗症の診断基準
局所的な過剰発汗が6ヶ月以上持続し、下記6症状のうち2項目以上あてはまる場合
(明らかな原因がないことも必要)
- 最初に症状がでるのが25歳以下であること
- 対称性に発汗がみられること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴がみられること
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
- 1. 部位:腋窩の他、掌蹠や頭部顔面にも生じる→”腋窩に限局”ではない
- 2. 一般に両側対称性に発汗がみられる→”片側性”は誤り
- 3. 睡眠中の発汗は通常停止する
- 4. 塩化アルミニウム溶液外用:どの部位でも有効な治療として推奨されている。ただし保険適用製剤はないので院内製剤として一般的に処方される
- 5. テタヌス毒素(A型ボツリヌス毒素:ボトックス®)局所注射:有効性は高いが、保険適用外※
※2012年11月〜「重症の原発性腋窩多汗症」に対して保険適用となっている。そのほか部位は保険適用外
選択肢5について。現在重症例は保険適用があるので誤りとも解釈できる文章だが、出題当時(2012年夏)は正解選択肢
関連問題(原発性局所多汗症)
選択問題77:解答 1, 3, 5
アトピー性皮膚炎(AD)の病勢マーカーを問う問題
短期的病勢を反映する項目にTARC・好酸球・LDHがある→1, 3, 5
- 1. 血清TARC値:Th2細胞遊走に関わるサイトカインで、ADの病勢を反映する。年齢毎で基準値が異なり小児は高値となるため注意
- 2. CRP値:細菌感染症等で上昇するが、ADの病勢は反映しない
- 3. 末梢血好酸球数:ADでは気管支喘息やアレルギー性鼻炎と比較しても著しく増多することが多く、重症度に相関して増加するので病勢マーカーとなり得る
- 4. 血清総IgE値:アレルギー素因を表しており、ADの短期的な病勢変化は反映しない。長期的なコントロールの指標にはなりえる
- 5. 血清LDH値:重症例では上昇し、皮膚の炎症による組織傷害を反映するとされる
上記の中でもTARC値はより鋭敏に病勢を反映するため、病勢マーカーとして利用される頻度も高い
近年は血清SCCA2値も病勢マーカーとして利用される。TARCと比較して年齢による基準値の差がないため、小児(15歳以下)で保険適用となっている
- 参考:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021 日皮会誌:131(13), 2691-2777, 2021のp2709, 表10(p2716), p2763-2765
関連問題
選択問題78:解答 5
多核巨細胞が見られない疾患を問う問題
多形紅斑では通常見られない→5
肉芽腫性炎症では多核巨細胞が見られることが多い
- 1. 環状肉芽腫:組織では中央に変性したムチンが存在し、それを組織球や巨細胞が取り囲む柵状肉芽腫の像が特徴
- 2. 色素細胞母斑:真皮内病変が主体の複合母斑や真皮内母斑では多核巨細胞が見られることがある
- 3. ヘルペスウイルス感染症:封入体を有する巨細胞(balloon cell)が特徴
- 4. 炎症性表皮嚢腫:多数の多核巨細胞を伴う異物肉芽腫がみられる。なお中身の角質塊はケラチンから構成される
- 5. 多形紅斑:表皮真皮接合部のリンパ球浸潤や液状変性(境界部皮膚炎)をきたし、異常角化細胞もみられる。巨細胞は通常見られない
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p47/348(1)/487(3)/417(4)/139(5)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p64/515(1)/787(3)/601(4)/291(5)
- 選択肢2の参考:皮膚科セミナリウム 第39回 色素細胞母斑に見られる病理組織学的所見 日皮会誌:118(8), 1483-1488, 2009
関連問題
選択問題79:解答 2, 4
苔癬型組織反応をきたす疾患を問う問題
線状苔癬や急性痘瘡状苔癬状粃糠疹が該当→2, 4
境界部皮膚炎 (interface dermatitis)
炎症は組織学的に表皮か表皮基底膜〜真皮(境界部)かに分類される
炎症部位 | 特徴的所見 | 代表疾患 |
表皮 | 海綿状態 | 急性湿疹 |
Gibertバラ色粃糠疹 | ||
表皮基底膜〜真皮(境界部) | 液状変性 | 扁平苔癬 |
薬疹(多形紅斑・固定薬疹) | ||
エリテマトーデス・皮膚筋炎 |
境界部皮膚炎をきたす疾患の代表が扁平苔癬のため、境界部皮膚炎は苔癬様反応(lichenoid reaction)や苔癬型組織反応・苔癬様皮膚炎などと呼ばれることがある
外部からの刺激が原因の場合(ex 接触皮膚炎)は体表近くの表皮で炎症所見が強く、体内のものに対する反応が原因の場合(ex 血中に取り込まれた薬剤→薬疹, 自己組織→抗原病)は毛細血管のある境界部で炎症所見が強くなる、と考えると理解しやすい
- 1. 慢性単純性苔癬(Vidal苔癬):慢性湿疹の一型で類円型の苔癬化局面をきたす。慢性湿疹の組織では過角化や表皮肥厚がみられる
- 2. 線状苔癬:小児でBlaschko線に沿った線状の角化性紅色局面をきたす。組織学的には慢性湿疹類似だが、苔癬様変化がみられる場合もある
- 3. アミロイド苔癬:ケラチンを前駆物質とする、皮膚限局性アミロイドーシス。組織学的に真皮乳頭部のアミロイド沈着や角質・表皮の肥厚がみられる
- 4. 急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(PLEVA*):類乾癬の一型で痂皮・潰瘍を伴う丘疹がみられる。組織では液状変性や真皮血管周囲のリンパ球浸潤がみられる
- 5. 粘液水腫様苔癬(丘疹性ムチン沈着症):四肢伸側や顔面で透明黄〜赤色の丘疹が集簇し、苔癬化局面を形成する。組織では真皮でのムチン沈着がみられる
*PLEVA = pityriasis lichenoides et varioliformis acuta
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p45/126(1)/293(2)/316(3)/291(4)/320(5)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p54/139(1)/393(2)/446(3)/234・386(4)/453(5)
- 参考:日本皮膚病理組織学会 皮膚病理組織学用語
- 選択肢2の参考:Blaschkitis 臨床皮膚科 73(5増), p23-26, 2019
選択肢2について。「線状苔癬」の組織については非特異的な湿疹様の変化と記載されていることが多い(上記教科書では2冊とも)→湿疹様変化は上記で言うところの表皮の変化なのでこの選択肢は誤りとなってしまう。ただ文献によっては「線状苔癬」でも苔癬様変化が見られるとされており、ここでは正解選択肢と考えた
※「線状扁平苔癬」が苔癬様皮膚炎をきたすとはどちらの教科書にも記載されており、こちらであれば文句の付けようがない問題だが…
関連問題
選択問題80:解答 5
組織像から疾患を推定する問題。不全角化や表皮突起の棍棒状延長から尋常性乾癬を考える
同疾患で出現するのはAuspitz現象→5
- 1. 白色皮膚描記症:皮膚を先端が鈍なものでこすると白色に変化する現象でアトピー性皮膚炎で見られる。なお紅色皮膚描記症は蕁麻疹で見られる現象
- 2. Wickham線条:扁平苔癬でみられる灰白色の細い線で、組織学的に顆粒層肥厚と対応する
- 3. Nikolsky現象:一見正常な皮膚をこすると表皮剥離や水疱をきたす現象で、天疱瘡や先天性表皮水疱症、TEN*などで陽性となる
- 4. Darier徴候:皮膚をこすると肥満細胞の脱顆粒から膨疹を生じる現象で、肥満細胞症においてみられる
- 5. Auspitz現象:鱗屑を剥離していくと容易に点状出血をきたす現象で、乾癬においてみられる
*TEN = 中毒性表皮壊死症
なおその他乾癬で特徴的とされる理学所見にKöbner現象(健常部をこすると皮疹が誘発される)がある
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p76/281(5)/291(2)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p104/380(5)/390(2)
関連問題
選択問題81:解答 2
表在拡大型黒色腫(SSM)で最も高頻度に変異がみられ、治療ターゲットでもある分子を問う問題
BRAF遺伝子が該当→2
MAPキナーゼ経路に位置し、細胞増殖に関わっている
なお近年は表在拡大型黒色腫(SSM)よりLow-CSD (cummulative sun damage 日光曝露累積量) melanomaと表現されることが多い
BRAF遺伝子変異や治療薬については下記参照
-
BRAF阻害薬とMEK阻害薬 【悪性黒色腫】
続きを見る
- 1. N-ras:BRAFの上流に位置する分子で、先天性母斑や一部の悪性黒色腫で遺伝子変異がみられる
- 2. BRAF:悪性黒色腫、とくに非露光部病変で高頻度に見られる遺伝子変異。ひとつ下流にあるMEKと併せて阻害薬による治療のターゲットとなっている
- 3. MITF:メラノサイトの分化に関わる転写遺伝子で、Waardenburg-Klein症候群の原因遺伝子として知られる
- 4. c-KIT:メラノサイトに発現している膜受容体型チロシンキナーゼの一つ(図で細胞膜部に存在)で、メラノーマで遺伝子変異が見られることがある
- 5. PTEN:PI3キナーゼ経路に存在する遺伝子。メラノーマで変異が見られる事があるが、Cowden症候群の原因遺伝子としても知られる
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p486(2)/574(3)/411(5)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p734(2)/542(3)/587(5)
- 参考・図引用:皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 メラノーマ診療ガイドライン2019 日皮会誌:129(9), 1759-1843, 2019
関連問題
BRAF遺伝子変異についての出題は複数あり上記記事参照
選択問題82:解答 4
獲得免疫に関わる細胞を問う出題
細胞XはMHC classⅡを発現し抗原提示を行い、細胞YはTCR受容体を持ち抗原提示を受けている
抗原提示細胞は樹状細胞・マクロファージ・B細胞の3つであり、Xは樹状細胞に該当※。TCR (T cell receptor)を持つことからYはナイーブT細胞であることがわかる→解答は4
※3つの中で最も抗原提示能が高いのが樹状細胞。"ナイーブ"B細胞は抗原と出会っていない細胞を意味するので、細胞Xには該当し得ない
細胞性免疫とCTLA-4
IFN-γやIL-12の存在下でCD4陽性ナイーブT細胞はTh1細胞へ分化し、細胞性免疫を惹起する
この際はMHC classⅡを介した抗原提示に加えて、CD80/86(別名B7)とCD28の相互作用が必要になる
ここでCTLA-4は免疫抑制に関わる分子であり、B7とCD28の結合を阻害する(→細胞性免疫が働けなくなる)
逆に言えばこのCTLA-4を阻害することでB7-CD28相互作用が行われ、細胞性免疫が活性化される
ここに着目した治療薬が抗CTLA-4抗体製剤イピリムマブ(ヤーボイ®)であり、同剤により腫瘍免疫が賦活化される。皮膚科領域ではメラノーマに対して使われる
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p28-30
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p74-76
- 参考・図引用:自己免疫疾患をより良く理解するための免疫学 > 第4回 MHC分子とは
- 参考・図引用:がん免疫.jp CTLA-4阻害とPD-1阻害
関連問題
選択問題83:解答 4
Sweet病および川崎病の別名を問う出題
- Sweet病 = acute febrile neutrophilic dermatosis
- 川崎病 = acute febrile mucocutaneous lymphonode syndrome
で、いずれもfebrile(熱性)が含まれる→4
- 1. fatigue(疲労):慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)など
- 2. scalded(熱傷様):ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS staphylococcal scalded skin syndrome)など
- 3. necrotizing(壊死性):壊死性筋膜炎(necrotizing fasciitis)など
- 4. febrile(熱性):上記のほか発熱性好中球減少症(FN febrile neutropenia)など
- 5. pyogenic(化膿性):化膿性肉芽種(PG pyogenic granuloma)など
なお無熱はafebrileで、カルテに好んで書く医師も多い
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p143・173(4)/522(2)526(3)/424(5)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p201・227(4)/840(2)/846(3)/682(5)
選択問題84:解答 5
各組織の放射線感受性について問う出題
最も放射線感受性が低いのは神経組織→5
放射線感受性 ベルゴニー・トリボンドーの法則
各組織の放射線感受性に関する法則
細胞分裂の頻度が高く、形態的・機能的に未分化な方が放射線感受性が高くなる(=影響が出やすい)
具体的には下記のような順で放射線感受性が高い
- 造血系:骨髄・リンパ組織(脾臓, 胸腺, リンパ節)
- 生殖器系:精巣・卵巣
- 消化器系:粘膜・小腸絨毛
- 表皮・眼:毛嚢・汗腺・皮膚・水晶体
- その他:肺・腎臓・肝臓・甲状腺
- 支持系:血管・筋肉・骨
- 伝達系:神経
必然、放射線治療が有効な腫瘍も血液腫瘍・精巣腫瘍・未分化腫瘍>肉腫となる
よって本問の選択肢を感受性が高い方から順番に並べると下記のようになる
4. 造血組織(骨髄) > 1. 腸上皮 > 2・3. 表皮・毛包 > 5. 神経組織
選択問題85:解答 1
特殊染色について問う出題
アザン染色は膠原線維を染めるが、青色であり赤色ではない→1
- 1. アザン(Azan)染色:膠原線維を"青色"に染色する。膠原線維を赤色に染色するのはエラスチカワンギーソン染色
- 2. ズダン(sudan)Ⅲ染色:脂肪を赤色に染色する
- 3. エラスチカ・ワンギーソン(Elastica van Gieson)染色:弾性線維を黒色に、膠原線維を赤色に染色する
- 4. コッサ(Kossa)染色:カルシウムを黒く染色する。弾性線維性仮性黄色腫の診断に有用
- 5. グロコット(Grocott)染色:真菌を黒く染色する。真菌診断にはPAS染色(赤色)も有用
アザン染色やエラスチカ・ワンギーソン染色は穿孔性皮膚症の診断に有用
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p40
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p47
関連問題
- 2022 選択26 (真菌を同定する際の染色)
- 2022 選択74 / 2014 記述6 / 2011 選択26 / 2011 記述1 (穿孔性皮膚症の染色)
- 2020 選択59 / 2010 記述11 (弾性線維性仮性黄色腫診断のための染色)
選択問題86:解答 4
皮膚リンパ腫診断で遺伝子再構成解析に利用される手法を問う出題
DNAを検出する必要があるため、サザンブロットが用いられる→4
リンパ腫など腫瘍性病変であればモノクローナルなバンドになるが、反応性・増殖性(良性疾患)であればポリクローナルなため特定のバンドが見られない
各種ブロット法については下記
名称 | 方角 | 対象 | 具体例 |
サザンブロット | 南 | DNA | 遺伝子再構成解析 |
ノーザンブロット | 北 | RNA | |
ウェスタンブロット | 西 | タンパク質 | 自己抗体検索 |
なおサザンは開発者の人名だが、その後は語呂合わせのような形で方角の名前がつけられている(のでSouthern以外は先頭が小文字表記)
- 1. ウエスタンブロット法:タンパク質を検出する手法
- 2. イースタンブロット法:特定の手技を指す名称としては用いられない
- 3. ノーザンブロット法:RNAを検出する手法
- 4. サザンブロット法:DNAを検出する方法
- 5. in situ ハイブリダイゼーション法:組織内(in situ)で目的とする遺伝子(DNAやmRNA)の発現部位を解析する手法。実際の組織を用いるため、どの部位にどのタイミングでどの遺伝子が多いのかを調べる局在分析に向く
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p471(4)/87(1)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p114(4)/110(1)
- 参考:生化夜話 第10回:ブロッティングとは呼ばないで - サザンブロッティング, 生化夜話 第11回:なぜイースタンではなくウェスタンだったのか - ウェスタンブロッティング
- 選択肢5の参考:FUJIFILM > in situ ハイブリダイゼーション法とは?
関連問題
- 2022 選択7 (サザンブロット法が検出するもの)
選択問題87:解答 5
ダーモスコピーから合致する組織像を選ぶ問題
ダーモスコピーでは黒色の丸い小湖(dark lacunae)やその間を埋めるwhitish veilがみられ、被角血管腫の像。組織ではEに相当する→5
被角血管腫のダーモスコピー
6つの特徴的所見があり、とくにdark lacunaeは感度93.8%、特異度99.1%と報告されている
所見 | 頻度 |
dark lacunae | 94% |
whitish veil | 91% |
erythema | 69% |
peripheral erythema | 53% |
red lacunae | 53% |
hemorrhagic crusts | 53% |
本問その他の組織については下記(次問選択問題88と同一)
- A. 尋常性疣贅:角層過角化や表皮肥厚・病変部の乳頭状隆起がみられ、強拡では空胞細胞(コイロサイトーシス)がみられる※
- B. 基底細胞癌:真皮において腫瘍細胞の胞巣状増殖がみられ、ムチン沈着に伴い周囲組織との間に裂隙を形成している
- C. Bowen病:表皮全層性に異型細胞や核分裂像がみられる。異常角化細胞(Clumping cell)も特徴だが本写真でははっきりしない
- D. 脂漏性角化症:強拡大にて偽角化嚢腫(ダーモスコピーでのmultiple milia-like cystに相当)がみられる
- E. 被角血管腫:真皮での毛細血管拡張と内腔での血液貯留がみられる
※Aの組織写真は2020 記述18と同一
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p61/494(A)/444(B)/451(C)/406(D)/430(E)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p804(A)/641(B)/629(C)/594(D)/683(E)
- 参考・図引用:Dermoscopy of solitary angiokeratomas: a morphological study. Arch Dermatol. 2007 Mar;143(3):318-25.
関連問題
選択問題88:解答 2
ダーモスコピーから合致する組織像を選ぶ問題
ダーモスコピーでは樹枝状血管(arborizing vessels)や多発青灰色小球(multiple blue-gray globules)がみられ、基底細胞癌の像。組織ではBに相当する→2
本問その他の組織については下記(前問選択問題87と同一)
基底細胞癌のダーモスコピー
代表的な所見は下記
arborizing vessels | 樹枝状血管 |
multiple blue-gray globules / large blue-gray ovoid nests | 多発青灰色小球 / 大型青灰色類円形胞巣 |
ulceration | 潰瘍形成 |
spoke wheel areas | 車軸状領域 |
leaf-like areas | 葉状領域 |
- A. 尋常性疣贅:角層過角化や表皮肥厚・病変部の乳頭状隆起がみられ、強拡では空胞細胞(コイロサイトーシス)がみられる※
- B. 基底細胞癌:真皮において腫瘍細胞の胞巣状増殖がみられ、ムチン沈着に伴い周囲組織との間に裂隙を形成している
- C. Bowen病:表皮全層性に異型細胞や核分裂像がみられる。異常角化細胞(Clumping cell)も特徴だが本写真でははっきりしない
- D. 脂漏性角化症:強拡大にて偽角化嚢腫(ダーモスコピーでのmultiple milia-like cystに相当)がみられる
- E. 被角血管腫:真皮での毛細血管拡張と内腔での血液貯留がみられる
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p58・494(A)/444(B)/451(C)/406(D)/430(E)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p804(A)/641(B)/629(C)/594(D)/683(E)
関連問題
選択問題89:解答 2
加水分解コムギ配合石鹸による小麦アレルギーに関する問題
グルパール19Sのプリックテストが陽性となることが特徴→2
加水分解コムギ含有化粧品によるアレルギー
加水分解コムギ含有化粧品(旧茶のしずく石鹸®)を使用することで、含有されているグルパール®19Sに経皮感作
→小麦経口摂取時に、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を発症
検査では加水分解小麦を用いたプリックテストが有効
通常の小麦によるFDEIAと比較して下記のような違いがある
FDEIA | 通常型 | 加水分解小麦型 |
症状 | 蕁麻疹(全身の膨疹) | 血管浮腫(眼瞼浮腫) |
アナフィラキシーショック | しばしば | 起こりえる |
小麦特異的IgE陽性率 | 44% | 70% |
ω-5グリアジン特異的IgE*陽性率 | 82% | 10% |
加水分解小麦によるプリックテスト | 陰性 | 陽性 |
*アレルゲンコンポーネントの一つで、通常の小麦アレルギーでは小麦特異的IgEより陽性率が高い
- 1. ω5-グリアジン特異的IgE:通常の小麦アレルギーでは陽性率が高いが、加水分解コムギ型では陽性率が低い
- 2. グルパール19Sのプリックテスト:加水分解コムギ型では陽性となるが、通常型では陰性のため鑑別に有効
- 3. 初期は"接触じんま疹"を生じ、感作後はFDEIAの病型をとる。接触皮膚炎とは異なる
- 4. 小麦食品摂取でFDEIAをきたす
- 5. 感作源は加水分解コムギ含有化粧品。花粉で感作され、食物を摂取すると発症する口腔アレルギー症候群(代表例はシラカンバ・ハンノキ-リンゴ・モモ)とは異なる
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p134
- 参考:マルホ皮膚科セミナー 2011/12/15 加水分解コムギ石鹸によるFDEIA
関連問題(加水分解コムギ)
選択問題90:解答 2, 3, 4
皮膚科専門医のいる認定施設や皮膚科専門医との連携が使用条件となっている薬剤を問う問題
乾癬に対する生物学的製剤やテラプレビルが該当→2, 3, 4
- 1. ボリノスタット(ゾリンザ™):ヒストンの脱アセチル化酵素、HDACを阻害する作用を持ち皮膚T細胞性リンパ腫(菌状息肉症等)に利用される
- 2. テラプレビル(テラビック™):C型肝炎治療薬で、Stevens-Johnson症候群など重症薬疹の頻度が高いため皮膚科医との連携が必要※
- 3. インフリキシマブ(レミケード™):抗TNF-α抗体製剤で、乾癬に対して利用される
- 4. アダリムマブ(ヒュミラ™):抗TNF-α抗体製剤で、乾癬のほか壊疽性膿皮症や化膿性汗腺炎に対しても利用される
- 5. ラモトリギン(ラミクタール™):抗てんかん薬であり、Stevens-Johnson症候群やDIHSなどの重症薬疹を引き起こすことがある(が皮膚科医との連携は使用条件として明記されていない)
※テラプレビルは2017年で製造販売中止となっている (2017年12月第6版で削除)
選択肢3・4を始めとする生物学的製剤やJAK阻害薬は乾癬分子標的薬使用承認施設(皮膚科専門医の常勤が基本条件)でしか投与できない
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p471(1)
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p121(1)
- 選択肢2の参考:日本皮膚科学会 > C型慢性肝炎におけるテラプレビル製剤の適正使用に関する協力依頼について
- 選択肢3・4の参考:乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス (2022年版) 日皮会誌:132(10), 2271-2296, 2022
- 選択肢5の参考:ラモトリギンによる重症薬疹と用法・用量の遵守について
記述問題1:解答 尋常性疣贅 (verruca vulgaris)
病理所見からの診断を問う問題
図32A1では角層過角化や表皮肥厚があり、病変部は乳頭状に隆起している
A2では空胞細胞(コイロサイトーシス)がみられ、HPVウイルス感染による疾患であることが推察される
→上記より尋常性疣贅(verruca vulgaris)の診断
強拡大では尖圭コンジローマと類似するが、弱拡大で尋常性疣贅は乳頭状に増殖し縦に長い病変である一方、尖圭コンジローマは丸く鈍な構造を取る
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p494
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p804
- 参考書籍:みき先生の皮膚病理診断ABC ①表皮系病変 p22/28
- 参考・図引用:ウイルス性疣贅(尋常性疣贅など)|電子コンテンツ|日本医事新報社
関連問題
- 2020 記述18 (★同一問題★)
記述問題2:解答 基底細胞癌(basal cell carcinoma)
病理所見からの診断を問う問題
図32B1では真皮に腫瘍胞巣があることがわかり、図32B2では腫瘍細胞の柵状配列や周囲結合組織間との裂隙形成(腫瘍が産生するムチンの沈着)がみられる
上記より基底細胞癌(basal cell carcinoma)の診断
腫瘍細胞が胞巣状に増殖する点や柵状配列する点、裂隙がある点は毛芽腫と類似。毛芽腫では腫瘍胞巣と裂隙が直接密着せず、間に膠原線維が存在することが特徴(fibroepithelial unit)
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p444
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p641
- 参考(BCCと毛芽腫):新・皮膚科セミナリウム 毛包系腫瘍の病理 -最近の話題 日皮会誌:128(13), 2815-2822, 2018
関連問題
- 2014 選択57 (基底細胞癌とムチン産生)
記述問題3:解答 フェオメラニン
赤毛に関連するメラニンを問う出題
メラニンにはユーメラニンとフェオメラニンの2種類があり、赤毛に関連するのはフェオメラニン
メラニンの色 | 毛髪 | |
ユーメラニン | 黒色 | 黒毛 |
フェオメラニン | 黄色 | 赤毛 |
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p11/23
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p18
関連問題
記述問題4:解答 小児腹壁遠心性脂肪萎縮症(遠心性リポジストロフィー)
2歳女児の鼡径部〜下腹部で陥凹性病変がみられ、小児腹壁遠心性リポジストロフィーの診断
小児腹壁遠心性リポジストロフィー
小児(4歳以下)の鼡径部あるいは腋窩で片側性にみられる限局性脂肪萎縮症で、アジア人の女児に多い
原因不明だが家族例も存在する
2/3の例で自然寛解が得られる
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p359
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p508
記述問題5:解答 乳頭状汗管嚢胞腺腫 (syringocystadenoma papilliferum)
中高年女性で小児期より頭頂部に脱毛斑があり、同部位にびらんを伴う紅色腫瘤が出現している
組織学的には絨毛状・乳頭状の増殖をきたしており、強拡大では形質細胞浸潤がみられる
上記より乳頭状汗管嚢胞腺腫(syringocystadenoma papilliferum)の診断
乳頭状汗管嚢胞腺腫は脂腺母斑に続発することが多く(1/3)、本例の病歴も合致する
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p416
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p622
関連問題(乳頭状汗管嚢胞腺腫)
記述問題6:解答 ポリ塩化ビフェニル (ダイオキシン)
1968年に集団発生した油症の原因物質を問う出題
いわゆるカネミ油症事件で、原因物質のポリ塩化ビフェニル(PCB)がやダイオキシン類が米ぬか油に混入
これを摂食したヒトに中毒症状(ざ瘡様皮疹や色素沈着・末梢神経障害)が生じた
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p363
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p746
- 参考:厚生労働省 > カネミ油症について 【医療従事者の方向けの情報】
カネミ油症の原因物質としてはPCBが有名だが、現在では高毒性なダイオキシン類の一種PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)がカネミ油症の主な原因物質であるとされている※。つまり本問の解答としてはダイオキシンでも問題ないと思われる
※ヒト血中濃度が低く、カネミ油症事件発症時の技術ではPCDFの測定は困難だった(現在は測定可能となり、2004年から油症診断基準に含まれている)。一方PCBは当時から測定可能だった
記述問題7:解答 フルニエ壊疽
外陰部に壊死を生じる、壊死性筋膜炎の特殊型はフルニエ壊疽
フルニエ壊疽
男性の陰部(陰嚢・陰茎・会陰部)に生じる壊死性筋膜炎(壊死性軟部組織感染症)で、外傷や尿道疾患・手術などに続発する
典型例では陰嚢の有痛性腫脹→壊疽をきたす。原因菌はグラム陰性菌・黄色ブドウ球菌・レンサ球菌・嫌気性菌など
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p527
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p848
記述問題8:解答 陰茎結核疹
中高年男性で半年前から亀頭部〜環状溝にかけて有痛性小結節がみられる
組織では乾酪壊死を伴うLanghans型巨細胞が見られ、陰茎結核疹の診断
陰茎部に限局する丘疹壊疽性結核疹*で、陰茎癌との鑑別が問題となる
*結核菌自体ではなく、結核菌に対するアレルギー反応が原因となる結核疹の一つ
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p550
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p868
関連問題
- 2020 記述5 (★同一問題★)
記述問題9:解答 adaptive
2011年のノーベル医学生理学賞受賞理由を問う出題
Ralph M. steinmanは樹状細胞の発見および獲得免疫(adaptive immunity)における役割の研究に対して、Bruce A. Beutler と Jules A. Hoffmannは自然免疫(innnate immunity)の活性化に関する研究に対して授与されている
なおラルフ・スタインマンは受賞発表があった3日前に逝去していたことが、当時話題となった(ノーベル賞は通常生存者にしか授与されないため。結局取り消しにはならなかった)
獲得免疫は英語だと"acquired" immunityと表記されることもある
- 参考:The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2011 - NobelPrize.org
- 参考:日本経済新聞 ノーベル賞受賞のスタインマン氏、既に死去と判明
記述問題10:解答 プロゾーン現象 (地帯現象)
顕性梅毒患者で、通常のRPR法陰性・TPHA試験で5,120倍以上陽性。このとき50倍希釈結成でRPR法を再検すると、陽性となる現象をプロゾーン現象と呼ぶ
抗原または抗体過剰によって反応が抑制され、偽陰性となる現象のこと
RPR(-) TPHA(+)は治療後の梅毒でも生じ得る検査結果のため、解釈に注意が必要
梅毒の検査方法については下記も参照
-
梅毒 血清学的検査法の比較 STS法 TPHA法(TPLA法)
続きを見る
- 参考書籍:あたらしい皮膚科学 第3版 p561
- 参考:プロゾーン現象って何ですか? 検査と技術 44(13), p1272-1274, 2016
関連問題
上記リンク先参照。なお本現象と逆のRPR(+) TPHA(-)の場合の鑑別についても問われている(2018 選択37)