単純ヘルペスと帯状疱疹の治療に使われる抗ウイルス薬をまとめました
前半では抗ウイルス薬について解説し、後半では皮膚科専門医試験の関連問題を紹介しています
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単純ヘルペス 帯状疱疹 抗ウイルス薬まとめ
単純ヘルペス 抗ウイルス薬
単純疱疹(単純ヘルペス)で用いられる抗ウイルス薬内服は以下の3種類
内服期間は原則5日間
一般名 | 商品名 | 用法用量(1日量) |
アシクロビル | ゾビラックス® | 200mg ×5回 |
バラシクロビル | バルトレックス® | 500mg ×2回 |
ファムシクロビル | ファムビル® | 250mg ×3回 |
ただしいずれも腎代謝のため、腎機能(CCr)に応じて減量が必要
CCr (mL/min/1.73m2) | ≧10 | <10 |
アシクロビル | 200mg ×5回 | 200mg ×2回 |
CCr (mL/min) | ≧30 | <29 |
バラシクロビル | 500mg ×2回 | 500mg ×1回 |
CCr (mL/min) | ≧40 | 20-39 | <20 |
ファムシクロビル | 250mg ×3回 | 250mg ×2回 | 250mg ×1回 |
単純ヘルペス 特殊な用法用量
通常と異なる特殊な用法用量があり、代表例は下記2つ
- バラシクロビル 性器ヘルペスの再発抑制
- ファムシクロビル/アメナメビル PIT療法
バラシクロビル 性器ヘルペスの再発抑制
対象:性器ヘルペスの発症を繰り返す(概ね年6回以上)場合
用法用量:バラシクロビル500mg ×1回で、1年間投与後必要性について検討する
なおこれで抑制しきれない場合、250mg ×2回や1,000mg ×1回に変更可能
※性器ヘルペス以外の単純ヘルペスについては保険適用がない点に注意
ファムシクロビル PIT療法
対象:再発性単純ヘルペスで条件を満たしたもの
- 再発頻度が概ね年3回以上
- 再発の初期症状(患部の違和感・灼熱感・搔痒感など)を正確に判断可能
- 再発分の処方は1回のみ
PIT = patient initiated therapyの名前どおり、「薬をあらかじめ処方しておいて患者判断で服用開始する」ことが特徴

参考サイトより引用
用法用量は1,000mg ×2回で終了(one-day treatmentとも呼ばれる)
初回服用は初期症状(患部の違和感・灼熱感・搔痒感など)出現後6時間以内に行い、2回目はその12時間後*に服用する
*6〜18時間までは許容
こちらはバラシクロビルと異なり、口唇ヘルペス・性器ヘルペスどちらでもOK。以前は先発品のファムビル®のみ保険適用だったが、現在は後発品も含めて利用可能となっている(←リンク切れのためアーカイブ, 「トーワ」以外に「日医工」など各社ある)
アメナメビル PIT療法
対象:再発性単純ヘルペスで条件を満たしたもの
- 再発の初期症状(患部の違和感・灼熱感・搔痒感など)を正確に判断可能
- 再発分の処方は1回のみ
ファムシクロビルPIT療法と異なり、年間再発回数の制限がない
用法用量は1,200mgx1回で終了。ただし空腹時は吸収効率が下がるため、食後に内服する必要がある
初期症状(患部の違和感・灼熱感・掻痒感など)出現後6時間以内に内服するのはファムシクロビルと同様
※アシクロビルも成人・小児の「造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症の発症抑制」と小児の「性器ヘルペスの再発抑制」に保険適用があるがここでは省略
帯状疱疹 抗ウイルス薬
帯状疱疹の抗ウイルス薬は下記4種類:単純ヘルペスの3種類+アメナメビル
内服期間は原則7日間
一般名 | 商品名 | 用法用量(1日量) |
アシクロビル | ゾビラックス® | 800mg ×5回 |
バラシクロビル | バルトレックス® | 1,000mg ×3回 |
ファムシクロビル | ファムビル® | 500mg ×3回 |
アメナメビル | アメナリーフ® | 400mg ×1回 |
アメナメビル以外は腎代謝のため、単純ヘルペスと同様に腎機能にあわせて減量が必要(アメナメビルは減量不要)
アメナメビルは従来3種の薬と薬理機序が異なる
- ファムシクロビル・バラシクロビル・アシクロビル:核酸アナログであり、ヘルペスウイルスが増殖する際に取り込まれてその増殖を抑制する
- アメナメビル:ウイルス増殖の初期で働くヘリカーゼ・プライマーゼ(DNAの2重螺旋をほどく)の活性を直接阻害する

参考サイトより引用
減量基準については下記の通り
CCr (mL/min/1.73m2) | >25 | 10-25 | <10 |
アシクロビル | 800mg ×5回 | 800mg ×3回 | 800mg ×2回 |
CCr (mL/min) | ≧50 | 30-49 | 10-29 | <10 |
バラシクロビル | 1,000mg ×3回 | 1,000mg ×2回 | 1,000mg ×1回 | 500mg ×1回 |
CCr (mL/min) | ≧60 | 40-59 | 20-39 | <20 |
ファムシクロビル | 500mg ×3回 | 500mg ×2回 | 500mg ×1回 | 250mg ×1回 |
なおこれら腎排泄性抗ヘルペスウイルス薬とNSAIDsを併用すると抗ヘルペスウイルス薬の排泄遅延をきたすため、高齢者や腎機能低下者では鎮痛薬としてアセトアミノフェンの使用が推奨されている
- 参考:各種添付文書
- 参考:新・皮膚科セミナリウム 帯状疱疹の診断と治療 日皮会誌:130(13), 2683-2688, 2020
- 図引用:ファムビルのPITによる短期間投与について | マルホ 医療関係者向けサイト
- 図引用:HZ・Sフォーラム報告 第1回 帯状疱疹の新たな治療選択:アメナメビル〈新規 ヘルペスウイルス-ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬〉の創製 | マルホ 医療関係者向けサイト
皮膚科専門医試験 過去問 関連問題
問題出典:試験問題(過去問題) |公益社団法人日本皮膚科学会
2024年 選択問題94
再発性単純ヘルペスではファムシクロビル1,000mg 2回経口投与が行われる。再発抑制でバラシクロビルを用いるのは性器ヘルペスのみ
解答:1, 2, 5
解説詳細はリンク先:2024 選択94
2024年 記述問題2
PITのフルスペルはpatient initiated therapy
解答:initiated
解説詳細はリンク先:2024 記述2
2023年 選択問題75
ファムシクロビルはPIT療法の場合、1回目を内服してから12時間後に2回目を内服する
解答:3
解説詳細はリンク先:2023 選択75
2022年 選択問題92
ファムシクロビルはPIT療法の場合、1,000mg ×2回を内服する
解答:4
解説詳細はリンク先:2022 選択92
2021年 記述問題3
帯状疱疹治療に用いられる経口抗ウイルス薬を問う問題
解答:アメナメビル, ファムシクロビル, バラシクロビル, アシクロビルから3つ
解説詳細はリンク先:2021 記述3
2020年 選択問題23
解答:1
ファムビル®PIT療法の適応は性器ヘルペスおよび口唇ヘルペス
解説詳細はリンク先:2020 選択23
2020年 記述問題4
解答:アメナメビル
アメナメビルは既存の抗ヘルペスウイルス薬と作用機序が異なる
解説詳細はリンク先:2020 記述4
2017年 選択問題37
解答:3
性器ヘルペスの再発抑制に使われるのはバラシクロビル
解説詳細はリンク先:2017 選択37
2015年 選択問題22
解答:2, 3
鼻背部の帯状疱疹は眼合併症をきたしやすく(Huthinson徴候)、また高齢者・重症例では帯状疱疹後神経痛へ移行しやすい
高齢者では鎮静薬としてアセトアミノフェンの利用が無難
解説詳細はリンク先:2015 選択22
2010年 選択問題64
解答:1, 2
アシクロビルは原則5日間だが、初発型は重症化する場合があるため10日間まで使用可能
ファムシクロビルはCCrによって500mg×5日間となる場合もあるが、出題当時は帯状疱疹にしか保険適用がなかった(2013年に単純ヘルペスが追加された)