アトピー性皮膚炎に関わるサイトカインや治療薬(生物学的製剤・JAK阻害薬)についてまとめました
前半では各種サイトカインや病態・治療薬についてを、後半では関連する皮膚科専門医試験の問題・解答を紹介します
近年治療薬の開発が進み、それに伴い試験での出題頻度も増加している重要項目です
見出し
- 1 アトピー性皮膚炎 サイトカインと新規治療薬 (生物学的製剤・JAK阻害薬)
- 1.1 アトピー性皮膚炎に関わるサイトカイン
- 1.2 アトピー性皮膚炎 生物学的製剤
- 1.3 アトピー性皮膚炎 JAK阻害薬
- 1.4 EASIスコアと分子標的治療薬
- 1.5 皮膚科専門医認定試験 過去問 関連問題
- 1.5.1 2023年 選択問題11
- 1.5.2 2023年 選択問題25
- 1.5.3 2023年 選択問題51
- 1.5.4 2022年 選択問題29
- 1.5.5 2022年 選択問題48
- 1.5.6 2022年 選択問題80
- 1.5.7 2022年 選択問題87
- 1.5.8 2021年 選択問題10
- 1.5.9 2021年 選択問題17
- 1.5.10 2021年 選択問題28
- 1.5.11 2020年 選択問題8
- 1.5.12 2020年 選択問題12
- 1.5.13 2020年 選択問題21
- 1.5.14 2019年 選択問題4
- 1.5.15 2019年 選択問題17
- 1.5.16 2019年 選択問題21
- 1.5.17 2018年 選択問題11
- 1.5.18 2017年 選択問題14
- 1.5.19 2016年 選択問題77
- 1.5.20 2016年 記述問題2
- 1.5.21 2015年 選択問題18
- 1.5.22 2015年 選択問題43
- 1.5.23 2015年 選択問題63
- 1.5.24 2012年 選択問題77
アトピー性皮膚炎 サイトカインと新規治療薬 (生物学的製剤・JAK阻害薬)
アトピー性皮膚炎に関わるサイトカイン
アトピー性皮膚炎に関わるサイトカインで重要なものは下記3つに分類される
(2型サイトカインを分泌する細胞はTh2細胞以外にILC2:2型自然リンパ球という細胞もある)
2型サイトカイン:IL-4/13/31
サイトカイン | 役割 |
IL-4 | 掻痒感, フィラグリン発現低下 |
IL-5 | 好酸球遊走※ |
IL-13 | 掻痒感, フィラグリン発現低下 |
IL-31 | 掻痒感 |
※IL-5は掻痒感への関与は(相対的に)少ないとされる
フィラグリン
角層で発現する蛋白で、表皮バリアの形成に重要な役割を果たすためフィラグリン発現低下=皮膚バリア機能低下となる
- 前駆蛋白質:プロフィラグリンはケラトヒアリン顆粒(下図)として表皮顆粒層に存在
- 代謝産物:アミノ酸(天然保湿因子 NMF)として保水や紫外線吸収を行う
画像引用:9-1.C.1 図1はヒト表皮角層周辺の透過型電子顕微鏡写真である。正しいのはどれか。 | 皮膚科専門医試験勉強されている方、皮膚病、皮膚に関心のある方のためのブログ!!!
ケラチノサイトから分泌されるサイトカイン:IL-33, TSLP
IL-25・IL-33・TSLP
バリア機能の障害されたケラチノサイトからは、これらのサイトカインが分泌される
これらのサイトカインはTh2細胞を誘導する(=引いては上述の2型サイトカイン分泌を増加させる)作用を持つ
TARC (thymus and activation-regulated chemokine)
TARC
活性化した樹状細胞やLangerhans細胞から分泌され、Th2細胞の遊走を活性化する(=引いては上述の2型サイトカイン分泌が増加する)
別名CCL17とも呼ばれ、CCR4がその受容体となる
TARCはアトピー性皮膚炎の病勢マーカーとして、好酸球やLDHより鋭敏で保険適用で測定可能。年齢毎に基準値が異なる
年齢 | 基準値 (pg/mL) |
6ヶ月〜12ヶ月未満 | <1,367 |
1〜2歳未満 | <998 |
2〜15歳 | <743 |
成人 | <450 |
ただしアトピー性皮膚炎だけでなく、下記疾患でも高値となるため注意が必要
- T細胞リンパ腫 (菌状息肉症など)
- 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
- 水疱性類天疱瘡
- 丘疹紅皮症 (太藤)
CCR4
抗CCR4抗体モガムリズマブ(ポテリジオ®)は、下記疾患に保険適用となっている
- CCR4陽性の成人T細胞白血病リンパ腫
- 再発又は難治性のCCR4陽性の末梢性T細胞リンパ腫
- 再発又は難治性の皮膚T細胞性リンパ腫
これらのサイトカイン関連をまとめた図が下記となる
- 参考書籍:皮膚科学 第11版 p151-153
- 参考・図引用:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021 日皮会誌:131(13), 2691-2777, 2021
アトピー性皮膚炎 生物学的製剤
特定の分子をターゲットとした抗体製剤を生物学的製剤と呼ぶ
2型サイトカインに対する生物学的製剤は既に複数使用されている
ターゲット | 一般名 | 商品名 | 発売年 |
IL-4, IL-13 | デュピルマブ | デュピクセント® | 2018 |
IL-13 | トラロキヌマブ | アドトラーザ® | 2023 |
レブリキズマブ | 未 | ||
IL-31 | ネモリズマブ | ミチーガ® | 2022 |
IL-5 | メポリズマブ | ヌーカラ® | 2016※ |
※メポリズマブは気管支喘息および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に保険適用だが、アトピー性皮膚炎での皮疹や掻痒に対する効果は証明されていない
一方ケラチノサイトから分泌されるサイトカインに対する製剤で、保険適用のものはない(アトピー性皮膚炎に対して, 国内で)
メモ
- IL-33抗体製剤:イテペキマブが気管支喘息に対して臨床試験中
- TSLP抗体製剤:日本ではテゼペルマブ(テゼスパイア®)が気管支喘息に対して保険適用(2022/9/26)
- 参考:各種添付文書
- 参考:アトピー性皮膚炎の発症機序;AHR軸とIL-13/IL-4-JAK-STAT6/STAT3軸による競合的バリア調節機構 日皮会誌:130(13), 2705-2723, 2020
アトピー性皮膚炎 JAK阻害薬
生物学的製剤は細胞表面にあるサイトカイン受容体に働きかける一方、サイトカインの細胞内でのシグナル伝達に関わるJAK-STAT経路を阻害するのがJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬
生物学的製剤との主な違いをまとめると下記のようになる
生物学的製剤 | JAK阻害薬 | |
ターゲット | 原則1種類のサイトカイン
細胞表面のサイトカイン受容体 |
複数のサイトカイン
細胞内のシグナル伝達 |
分子量 | 大きい | 小さい |
用法 | 定期的な注射 | 連日の内服・外用 |
JAKには4種類(JAK1〜3, TYK2)あり、とくにJAK1やJAK2が2型サイトカインの細胞内シグナル伝達に関与する
内服薬として、アトピー性皮膚炎では下記3種類が保険適用となっている
一般名 | バリシチニブ | ウパダシチニブ | アブロシチニブ |
製品名 | オルミエント® | リンヴォック® | サイバインコ® |
承認(アトピー性皮膚炎) | 2020 | 2021 | 2021 |
阻害するJAK | JAK1, JAK2 | JAK1 | JAK1 |
対象患者 | 成人 (15歳以上) |
12歳以上 かつ30kg以上 |
12歳以上 |
用法容量 | 4mg | 15mg | 100mg |
増量減量 | 2mgに減量可能 | 30mgに増量可能 | 200mgに増量可能 |
そのほか主な適用疾患 | 円形脱毛症 関節リウマチ |
関節症性乾癬 関節リウマチ |
- |
一方外用薬としてはデルゴシチニブ(コレクチム®)があり、これは4種のJAK全てを阻害する作用を持つ
用法用量は1日2回で、1回あたりの塗布量は5gまでとなっている。2歳以上で利用可能
- 参考:アトピー性皮膚炎におけるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害内服薬の使用ガイダンス 日皮会誌:132(8), 1797-1812, 2022
- 参考:デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®軟膏0.5%)安全使用マニュアル 日皮会誌:130(7), 1581-1588, 2020
- 参考・図引用:作用機序 | コレクチム.jp|鳥居薬品株式会社
EASIスコアと分子標的治療薬
EASI(eczema area and severity index)スコア
湿疹の面積と重症度を示すスコア
全身を頭部/頚・体幹・上肢・下肢の4箇所にわけ、皮膚所見(紅斑・浸潤/丘疹・掻破痕・苔癬化)の程度に応じて0〜3点でスコア化したものに病変面積に応じたスコアをかけて算出する
皮疹スコアは4項目x3点で12点がMaxで、面積スコアは90-100%の6点がMaxなので、両者をかけ合わせた72点が最高点となる
とくにアトピー性皮膚炎の重症度評価に用いられ、EASIスコアが一定値以上であることが投与条件となる薬剤(生物学的製剤およびJAK阻害薬)がある
一般名 | 商品名 | ターゲット | EASIスコア |
デュピルマブ | デュピクセント® | IL-4/13 | 16以上※ |
トラロキヌマブ | アドトラーザ® | IL-13 | |
バリシチニブ | オルミエント® | JAK1/JAK2 | |
ウパダシチニブ | リンヴォック® | JAK1 | |
アブロシチニブ | サイバインコ® | JAK1 | |
ネモリズマブ | ミチーガ® | IL-31RA | 10以上 |
※顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する場合(目安として頭頚部のEASIスコア≧2.4)でも可
皮膚科専門医認定試験 過去問 関連問題
問題出典:試験問題(過去問題) |公益社団法人日本皮膚科学会
- 2023年 選択問題11
- 2023年 選択問題25
- 2023年 選択問題51
- 2022年 選択問題29
- 2022年 選択問題48
- 2022年 選択問題80
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- 2021年 選択問題10
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- 2021年 選択問題28
- 2020年 選択問題8
- 2020年 選択問題12
- 2020年 選択問題21
- 2019年 選択問題4
- 2019年 選択問題17
- 2019年 選択問題21
- 2018年 選択問題11
- 2017年 選択問題14
- 2016年 選択問題77
- 2016年 記述問題2
- 2015年 選択問題18
- 2015年 選択問題43
- 2015年 選択問題63
- 2012年 選択問題77
2023年 選択問題11
解答:3
EASIスコアの最高点は72点
乾癬の重症度スコアであるPASIスコアと満点は同様
解説詳細はリンク先:2023 選択11
2023年 選択問題25
解答:4
EASIスコアとかゆみスコアに応じて投与可能な薬剤が異なる
多くの薬剤はEASI>16が必要だが、ネモリズマブのみEASI>10で投与可能(ただしかゆみスコアの規定がある)
解説詳細はリンク先:2023 選択25
2023年 選択問題51
解答:4
IIL-17はJAK-STAT経路による直接の制御を受けない
解説詳細はリンク先:2023 選択51
2022年 選択問題29
解答:4
アレルギー性鼻炎の既往を持つ血管炎から好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の診断
保険適用があるのはIL-5抗体製剤のメポリズマブ(ヌーカラ®)
解説詳細はリンク先:2022 選択29
2022年 選択問題48
解答:4, 5
IL-33とTSLP以外はTh2細胞から産生される
解説詳細はリンク先:2022 選択48
2022年 選択問題80
解答:1, 2
バリシチニブ(オルミエント®)とデュピルマブ(デュピクセント®)は15歳以上のみ
JAK阻害薬でもウパダシチニブ(リンヴォック®)は12歳以上となっている
解説詳細はリンク先:2022 選択80
2022年 選択問題87
解答:3
IL-17はJAK-STAT経路による直接の制御を受けない
2型サイトカイン(IL-4/13/31)はJAK1とJAK2が関与する
(主に乾癬に関わる)IL-12やIL-23はJAK2とTYK2が関与する
参考:アレルギー用語解説シリーズ JAKキナーゼ アレルギー 67(2), p157-158, 2018
解説詳細はリンク先:2022 選択87
2021年 選択問題10
解答:4
アトピー性皮膚炎では2型サイトカインの作用でフィラグリン発現が低下する
解説詳細はリンク先:2021 選択10
2021年 選択問題17
解答:1, 3
デュピルマブ(デュピクセント®)のターゲットはIL-4/13
解説詳細はリンク先:2021 選択17
2021年 選択問題28
解答:3
バリシチニブ(オルミエント®)はJAK1/2を阻害する
解説詳細はリンク先:2021 選択28
2020年 選択問題8
解答:3
2型サイトカインであるIL-13はフィラグリン発現を低下させる
解説詳細はリンク先:2020 選択8
2020年 選択問題12
解答:1
Th2細胞はIL-13等の2型サイトカインを分泌する
またケラチノサイトから分泌されるIL-33の受容体を持ち、同刺激によって活性化される
解説詳細はリンク先:2020 選択12
2020年 選択問題21
解答:1, 2, 5
TARCが上昇するアトピー性皮膚炎以外の疾患として、菌状息肉症やDIHS、丘疹紅皮症(太藤)がある
同じ薬疹でもTENでは上昇しないため、鑑別に有効とされる
解説詳細はリンク先:2020 選択21
2019年 選択問題4
解答:3
天然保湿因子(NMF)はフィラグリンの分解産物であり、アミノ酸から構成される
解説詳細はリンク先:2019 選択4
2019年 選択問題17
解答:1, 3, 4
2型サイトカイン、とくにIL-4/13/31は痒みに直接関与する
IL-5も2型サイトカインだが掻痒感への関与は限局的
解説詳細はリンク先:2019 選択17
2019年 選択問題21
解答:4, 5
ケラチノサイトから分泌されるサイトカインはIL-33とTSLPが代表
解説詳細はリンク先:2019 選択21
2018年 選択問題11
解答:4
IL-5は2型サイトカインの一種で、好酸球遊走に関与する
解説詳細はリンク先:2018 選択11
2017年 選択問題14
解答:2
CCR4はTARCの受容体であり、皮膚T細胞リンパ腫でも高発現していることが知られている
このため治療薬としてCCR4阻害薬モガムリズマブが用いられる
解説詳細はリンク先:2017 選択14
2016年 選択問題77
解答:5
抗CCR4抗体製剤モガムリズマブ(ポテリジオ®)は成人T細胞白血病/リンパ腫に保険適用
解説詳細はリンク先:2016 選択77
2016年 記述問題2
解答:(t)hymus
解説詳細はリンク先:2016 記述2
2015年 選択問題18
解答:5
IL-4/13/31全てが関与するが、1つのみを選択する場合は(その他への関与が乏しい)IL-31を選択するのが妥当
解説詳細はリンク先:2015 選択18
2015年 選択問題43
解答:3
ケラチノサイトが産生するのはTSLP
Th2細胞が産生するのはIL-4/13/31
解説詳細はリンク先:2015 選択43
2015年 選択問題63
解答:2
モガムリズマブの標的分子はCCR4
一方リガンドがCCL17(TARC)
解説詳細はリンク先:2015 選択63
2012年 選択問題77
解答:1, 3, 5
TARCは短期的病勢評価に最も鋭敏な指標。好酸球数やLDHも鋭敏さには劣るが、短期的病勢マーカー
一方IgEも高値となるが、短期的な病勢変化は反映しない(長期コントロールの指標)